普通の計り…?
さて、前述の計りをご紹介しましょう。
目が見えない加瀬さんが、パンやケークサレをつくる際に使用する計りはこちらです。
グラムを音声で知らせてくれる優れもので、いくつか機種がありそれぞれ特徴があるそうです。
電池の残量まで教えてくれることに驚いていると、
「どれもこうですよね?これって普通だと思いますけど…。」と笑う加瀬さん。
普通、という言葉が心に残ります。
お菓子づくりのコミニュケーション
「わたしたちは、皆さんの障害をあまり念頭に置いていません。」
「やってみましょう、と言えば、皆さんトライします。やっぱりできません、と返ってきたらできる方法を考えます。」
フォローしてできる場合もあれば、できないときもあります。
「教えるにあたって“障害のある・ない”は、いつもあまり重要ではありません。できることとできないことは、その人によって異なるからです。」
バトン
作業する皆さんの姿は、自分のスタンダードをどう活かして仕事に取り組むか、ずっと考えながら手を動かしているように映ります。
「身体に不自由があると、どうしてもできないことがあります。」それでも、
「障害があることに甘んじてはいけない、いい加減な仕事をしてはダメだ、って、ときに声を上げる人がいます。まじめで、そして自分に厳しいのですね。」(施設長・加藤さん)
夢があり、現実があり、生きる人の営みに思いを馳せ、自分の生を思う一人ひとりの言葉に、加藤さんは耳を傾けます。
感染症拡大予防の自粛生活の中で、これまであまり見えなかった家庭のこと、家族の関係性を知ることになりました。
成長と老い。
これから訪れる、子と親の生活の変化について、考えなければばらない時期が来ているのではないか…。
加藤さんたちは、見つめ、寄り添い、模索します。
「わたしたちは、その人の顔だけを見ているわけにいきません。ときには背中も見なくてはならないのです。」(施設長・加藤さん)
福祉をめぐる環境や決まり事は日々変化し、その都度、施設は対応を迫られます。
当事者たちの自主運営からスタートし、地域作業所を経て平成19年に法人を設立。
加藤さんの静かな言葉は、次の世代へのバトンです。
「とまどいながら来ましたけれど、結論として、流されず信念を持って、自分の思いに従うことではないでしょうか。」(施設長・加藤さん)
エピローグ – ふたたび、お菓子づくり教室
オーブンから甘くて良い香りが漂い、クッキーが焼けました。
仕上げにデコレーションを施し、袋に詰めて作業を終了します。
「持ち帰って、大切な人に食べてもらってくださいね」と加藤さん。
私には別のものを待っていますよ、の言葉に皆さん笑いながら帰宅準備です。
白衣の片袖を抜いてもらえませんか?
クッキーを鞄に入れないで。
割れないように手で持ち帰りましょうか。
となりの部屋まで一人で移動できます。
タイムカード、まちがえて押しちゃいました…。
鞄が開いてますよ!
忘れ物はありませんか?
気をつけて、また来週!
スタッフの皆さんは、迎えの来訪者に挨拶し、帰宅する人を見送り、タイムカードをチェックし、厨房の清掃と次の日の準備に取り掛かり…、本当に忙しいのです。
ひと息つく頃、ごぼうハウスでつくるごぼう茶をご馳走になりました。
香ばしい、ほっとする美味しさです。
よかったらどうぞ、と、先ほどのクッキーをいただきます。
さっくりとして、口に入れるとあっという間になくなってしまう軽やかなクッキーです。
近々、これも商品になりますか?
「どうでしょうね…。」
…もうひとついただいても?
顔を上げると、加藤さんと鈴木先生の笑顔がありました。
電話 045-948-3474
営業時間 10:00-17:00
定休日 土・日・祝