おおぐち工房

・パン工房ゆうき ・給食の時間 ・『おおぐち工房 第2 』でつくるクッキー ・お店と地域のお客様

パン工房ゆうき

JR横浜線「大口」駅の西口を出て、左手の大口商店街をまっすぐ進むと、国道1号が見えます。
その少し手前に、『おおぐち工房 Ⅰ(社会福祉法人 横浜愛育会)』が運営する『パン工房ゆうき』があります。

JR横浜線「大口」駅、西口。

午前10時30分、ロールスクリーンが上がりオープン、自動ドアが開きます。
施設長の吉葉さんにご挨拶をすると、「昨日の記事を読みました。」とうれしい言葉をかけていただきました。
前日にコラバスのホームページに掲載した『おべんとうばこ(社会福祉法人 紡)』の記事を読んだこと、長いお付き合いの中で、横浜市の関わる外部販売に一緒に参加してきたこと、現在は新型コロナウィルスの影響で地元企業などでの外部販売ができないことなど、吉葉さんの言葉の中に、来し方のさまざまな思いが見受けられます。

『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん。

焼き上がったばかりのパンが並びはじめたお店を通り抜け、「中へどうぞ」と案内され工房におじゃまします。
職員の村田さんから「見ていただきたいところがたくさんあります。」と笑顔で迎えられ、写真を撮らせてください、と作業する皆さんにご挨拶をする、そんな取材のスタートです。

パンを焼く不破さん(非常勤職員)は焼く直前のパンの発酵具合を確認しながら、三段ある窯の面倒を見ます。手を入れて生地の様子を見て、焼き上がったパンを出す作業を繰り返します。
焼けました!

工房の窯から、次々に焼き上がったパンが出てきます。
『パン工房ゆうき』の溶岩窯は石窯の仲間で、炉の中に溶岩を切り出したプレートが使用されていて、遠赤外線が豊富なことが特徴です。一般的なオーブンよりもパンの中心まで熱が早く届くため、外側はパリッと、中はやわらかくしっとりとした食感に焼き上がります。

クリームパンをつくる廣庭さん。
こちらは “りんご “。中にリンゴのフィリングが入っています。廣庭さんは上手く成形できると、生地に向かって「完璧!」とつぶやきます。

前日につくった生地は冷凍後、発酵機に入れ翌日の朝を待ちます。
朝9時、職員の皆さんが出勤する頃、パン生地が出来上がっています。

発酵機の中で、冷凍 → 冷蔵 → 準発酵 → 発酵 の順番で一晩過ごし、当日に成形する直前までの状態になります。

ロールパンを担当する宮原さん。「ミニロールはうまく巻かないとふわっとしません。難しい作業ですが、彼はとても上手です。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)
ミニロールの成形が終わりました!

「限られた時間の中で利用者さんとパンをつくるために、前日の作業として、冷凍した生地を発酵機に入れて帰ります。冷凍に適したイースト菌を使用し、仮死状態にしても高さが出る、ウキが良い生地が出来上がります。この方法によって、朝9時からパンを焼くことができます。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

生地でクリームを包む非常勤職員の加山さん。
シフォンケーキをつくる星野さん。
揚げパンやドーナツなどのフライヤーを担当する非常勤職員の西村さん(右)。
揚げたての “ねじりパン“ は熱いうちにグラニュー糖をまぶします。「熱のあるものにはグラニュー糖、熱のないものにはコーティングシュガーを使います。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

「朝、一番はじめに焼き上がるパンは “レーズン食パン“ です。焼きたても美味しいですが、冷めてからも美味しいです。切ってもいいし、手でちぎってもいいですね。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

レーズンパンの焼き上がり時間を知らせる案内ボード。時間になると待ちかねたお客様が来店。「原材料の値上げで、レーズンパンは値上げをしました。それでもお客様が買ってくださって、好評でいつも売り切れになります。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)
「週に一度、必ずレーズンパンを買いに来ます。」と言うお客さまのトレーの上には、左から、“レーズンパン“ 240円、“よもぎ“ 140円、“欧風ビーフカレー“ 150円。(2021年3月現在)

『街パン』では、クッキーをつくる『おおぐち工房 第2』の皆さんが販売を行いますが、ここでは『パン工房ゆうき』の皆さんで接客販売します。

「レジも利用者さんが打ちます。人により、文字が読める人や自分の名前を書ける人など、さまざまなのですが、レジは数字の読める人にお願いしています。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

販売担当の濱田さん(左)と非常勤職員の堀江さん(右)。濱田さんはドーナツのシュガーかけや、パンに照りを出すための刷毛がけなども担当します。
お店が賑わいはじめると、職員の村田さん(右)も接客へ。

利用者の皆さんには、パンをつくることや販売することの他にも大切な仕事がたくさんあります。
その時々で本人と相談しながら、身体のコンディションに合わせて作業を決めるのだそうです。

「『パン工房ゆうき』では、パンをつくれない人も仕事ができます。ここではパンをつくり販売していますが、それ以外にも大事な仕事がたくさんあるからです。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

洗い物を担当する大山さん。

任せられた仕事に取り組む様子には、その作業そのものを理解し、自分自身の身体を動かすための工夫や調整があり、仕上がりにはうつくしさを感じます。
今日、お客様が手にするパンには、こうしたひとつ一つの丁寧な作業が反映されています。

山田さんは右手を主に、左手で補助しながらパンの袋にシールを貼ります。「県福祉会館で販売する予定があり、袋の数を揃えてハンコを押しています。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)
シールを貼る作業が終わると、清潔なタオルを畳み、所定の棚に仕舞います。
休む間もなく、パン生地の計量に向かう山田さん(右)。概ね8kgの生地を切り分けます。
計量された生地はラップに包み冷凍庫へ。「ブルーのラップと手袋は異物混入を防ぐための必需品です。生地にない色が使われているため、安全に使用することができます。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

給食の時間

お昼が近くなると、工房の奥のキッチンでは給食の支度に取り掛かります。
お膳立てを担当する関口さんは、味噌汁をつくり終え、惣菜の盛り付けをします。

「お味噌汁は、ネギ、白菜、それから油揚げです。」(関口さん)

そっと蓋を開けて見せてもらうと、お味噌汁の良い香りです。

「今日の献立は唐揚げです。主菜と副菜は法人内の別の厨房でつくって、こちらへ運び込まれます。お味噌汁とご飯はここで用意します。今日の給食の支度をしている関口さんは、パンづくりや他のほとんどの仕事ができる人で、何でもまかせることができます。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

関口さんのつくるお味噌汁。料理が好きで、日頃から自宅でもつくるそうです。「得意料理はナポリタンです。」(関口さん)
皆さんの給食を配膳する職員の金子さん(左)と関口さん(右)。ボリュームの多さに驚いていると、「これで一人前ですね。」(職員・金子さん)

ひとつの皿にたくさんの惣菜が乗り、量も多く見えますが、皆さんの活動量や仕事ぶりから考えると、あたりまえにも感じます。

「こんなに仕事で動いていますが、健康診断の結果で食生活の改善を指導されまして、減量を目指す関口さんと一緒に、ご飯の量を減らしてダイエットに取り組んでいます。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

ご飯の量は人それぞれですが、二人は中盛りです。「私も関口さんも、少ないご飯の量に慣れて、今では充分に満足しています。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

ところで、トマトの乗っていない皿がありますが……。

「トマトが食べられない人のお皿ですね。私の子どもの頃は、給食で食べられないものを残すことができませんでした。けれどここでは、嫌いなものや食べられないものを、無理に食べる必要がないと思います。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

あらかじめ、好き嫌いや食べられないものを把握して、配膳の際にお皿によそわないようにしています。

右奥の皿にはトマトがありません。「実は私自身もキュウリが食べられません」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)
お昼前、自宅で作業する利用者さんに電話する村田さん。一日に2回、状況を聞きます。
左の給食は、村田さん用に「キュウリ抜き」です。

新型コロナウィルスの影響で、自宅で作業する人もいます。

「現在は18名の利用者さんが半数ずつ出勤し、以前の半分の人数で毎日パンを焼いています。本来なら、私たちの仕事は、皆さんがここに通っている時間を考えることなのですが、家にいる時間や、休日の過ごし方、外出時には出先を聞くなど、コロナの影響で細かいところに配慮しています。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

「コロナの影響で、換気用の窓にも網戸を張るなど、いろいろと必要な対応がありました。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

工房のお昼も新型コロナウィルスの感染予防対策により、テーブルには仕切りを設け、人数と時間を分けて給食をとります。

「また以前のように、皆んなでお昼を食べられるようになるといいですね。」(『パン工房ゆうき』職員・村田さん)

簡易パーテーションを設置する職員・金子さん。皆さんは同じ方向を向いて座りお昼を食べます。

さて、美味しそうな皆さんの給食ですが、実は同じメニューを一般のお客様も食べることができます。
JR横浜線「大口」駅のすぐそばで同法人が運営する喫茶店「おおぐち工房ふれあいTOMO」では、とてもリーズナブルな値段でランチが楽しめます。
ボリューム満点なうえ、いくらでもお腹に入りそうな、シンプルで美味しいランチ。
地域の皆さんが通う、うれしい場所です。

この日のランチは、日替り定食(唐揚げ)770円(税別、2021年3月現在)。デザートにゼリー、食後にコーヒーとクッキーが付きます。給食に負けずボリューミーですが、シンプルで美味しい味付けで、あっという間に完食です!
クッキーは『おおぐち工房 第2』でつくるこだわりのクッキーです。

『おおぐち工房 第2 』でつくるクッキー

『パン工房ゆうき』から歩いて10分ほど、JR横浜線「大口」駅からは2分ほどの場所にある『おおぐち工房 第2 』では、素材にこだわった手づくりのクッキーを焼いて販売しています。
午後、工房におじゃますると、午前中に焼いたクッキーを袋詰め作業をしていました。

通りに面した『おおぐち工房 第2 』、右側のガラス戸を開けるとショップです。
賞味期限の刻印。

「ここでは、担当する作業を決めず、一人ひとりがどの作業もできるように取り組んでいます。
通常は20名の利用者さんですが、新型コロナウィルスの影響で、現在は約半分の人数で入れ替えながらクッキーを焼いています。」(『おおぐち工房 第2 』職員・髙木さん)

利用者20名、職員6名(うち非常勤職員4名)がローテションで、工房と作業室に分かれて作業します。

午前に焼いたクッキーを冷まし、午後から袋詰め作業です。
店名が入ったシールを袋に貼ります。店の軒先テントやショップシールは深い赤で統一。
「理事長(松尾みち子さん)が好きな色を採用しています。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

「繰り返しの作業が得意な人もいますが、中には苦手な人もいます。飽きないように、どうやって仕事の楽しみを伝えるか、いつも考えています。私たちの支援の仕事の中で大切なところでもあります。」(『おおぐち工房 第2 』職員・髙木さん)

髙木さんは、皆さんとのコミュニケーションの中で信頼関係を深め、仕事への意欲の維持にもつなげています。

「お話し好きな人も多いので、仕事中に楽しい雑談もあります。ただ、しっかりやるべき時は “ここからは集中していきましょう! “ と伝え、メリハリをつけることで集中力を高め、取り組む時間を大切にしています。」(『おおぐち工房 第2 』職員・髙木さん)

利用者の皆さんに好きなこと、余暇の過ごし方などをたずねると、タブレットやスマートフォンでのゲーム、カラオケやDVD鑑賞などが圧倒的です。

「休憩時間はスマホやタブレットが多いですね。実家の人は休日もTVやDVD、ゲームなどして過ごす人が多いようです。」(『おおぐち工房第 2 』職員・髙木さん)

パン工房では自宅から通う利用者さんが多く、DVD鑑賞などで休日を過ごすことが多いとうかがいました。

「クッキーの利用者さんは、自宅から通う人とグループホームの人は概ね半々です。グループホームに入ると、はじめのうちは休日ごとに実家へ帰りますが、しばらくするとガイドヘルパーさんと一緒に出かけることが多くなります。今は新型コロナウィルスの影響で出かけられませんが、映画館に行ったり、カラオケに行ったり……。休み明けに歌ったリストを何十曲も見せてくれたりします。自宅から通っていたときよりもアクティブな印象です。」(『おおぐち工房 第2 』職員・髙木さん)

こちらは『パン工房ゆうき』の休憩時間。関口さん(右)はスマートフォン、宮原さん(左)はこの15分間にレゴを組み立てていました。

「新型コロナウィルス以前は、数人の利用者さんが店の外に出て、通る人にクッキーの試食を配ったりしていました。中には買ってくださる人もいて、大切なコミュニケーションだったのですが、今はできなくなりとても残念です。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

2020年度は、新型コロナウィルスの流行によって外部販売先も少なくなり、パンと同様にクッキーをつくる量も大幅に減りました。

「つくる量が減れば作業も減ります。つくりたいと思っている利用者さんの気持ちを叶えようと、量を減らしながらも全員が作業できるように、仕事の分担やローテーションに工夫をして取り組んでいます。」(『おおぐち工房 第2 』職員・髙木さん)

完成したクッキーを検品する髙木さん(右)。左奥に『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん。
クッキーと一緒に並ぶ、理事長・松尾みち子さん(社会福祉法人 横浜愛育会)の書籍。
『パン工房ゆうき』、『おおぐち工房 第2 』、「ふれあいTOMO』で手にすることができます。

お店に並ぶクッキーは、現在12種類ほど、レシピは16〜17種類と豊富です。
支援の仕事の中でクッキーづくりに出会った髙木さんは、「なんとかここまでやってこられたという思いです。これからもまだまだ勉強ですね。」と話します。

「まず、この一年で落ちた売り上げをなんとかしたいと思います。そして新型コロナウィルスが落ち着いて、外部で販売できるようになったら、買ってくださるお客様に新しい商品も楽しんでいただけるように、今からしっかり準備をして、頑張りたいと思います。」(『おおぐち工房 第2 』職員・髙木さん)

お店と地域のお客様

『パン工房ゆうき』の店内でお客様に声をかけると、笑顔でお気に入りのパンを教えてくれます。
近くのスポーツジムに行った帰りは必ず寄って “ピーナッツパン“ を買って帰るという人や、週に一度ご家族で人気の “レーズンパン“ を買いに来る人など。
『パン工房ゆうき』は、お客様にとって地域になくてはならない「商店街のパン屋さん」です。

左は “つぶつぶいちごクリーム “130円。右は、“ピーナッツパン“ 130円。(2021年3月現在)
「ピーナッツパンありますか?」とたずねるお客様の多い、人気のメニューです。
俵のような形の “おおぐちカレー“ 150円(2021年3月現在)は福神漬け入り。小さな型に入れて焼いています。
“おおぐちカレー“ は『街パン』総選挙にも出品、「ベストお気に入りパン」にも選ばれました。

アーケードの商店街からフラットに入ることができるため、電動カートでお買い物に来る人もいます。

「自動ドアの外から声をかけてくださって、決まった商品をお願いされることもあります。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

電動カートでお買い物に来たお客様に、パンは袋に入れますか?とたずねるスタッフの堀江さん。
「そのまま前カゴに入れてください。」とにっこりするお客様。前のカゴには、商店街で購入したお昼のお惣菜が入っていました。

昨年の春には共同募金の配分を利用して、店内に新しい什器を入れ、お客様が喫茶コーナーで、よりパンとお茶を楽しめるようにリニューアルをしたばかりです。

「その後、すぐに一度目の緊急事態宣言でした。それから今は二度目、まだ一度も新しいしつらえで喫茶をオープンできていません。本当に残念ですね。」(『おおぐち工房 Ⅰ 』施設長・吉葉さん)

店内には、パンが並ぶ木製の棚と、ゆったりくつろげるソファー席があります。
通りを行き交う街の人たちの姿を眺め、挨拶や立ち話の声を耳にしながら、美味しいパンとお茶でホッとする時間を過ごす、街のパン屋さん。
『パン工房ゆうき』では、地域の皆さんと一緒に、喫茶の再開を喜ぶ日を心待ちにしています。

おおぐち工房第2

住所 〒221-0002 横浜市神奈川区大口通139-17
電話 045-434-1065
営業時間 10:00〜17:00
定休日 土日祝日 夏季休暇、冬期休暇

「社会福祉法人 横浜愛育会」による運営。「ホテルレシピの手作りクッキー」を作っています。神奈川県民センター1階“ともしびグッズコーナー”だけでなく、通販サイト“横濱良品館”でも購入することができます。ミニプレゼント、詰め合わせ、お中元、お歳暮も承っております。お気軽にご相談ください。
HP http://横浜愛育会.com/koubou2.htm

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この記事を書いた人

N

日頃、ひとりは建築設計を仕事にしていて、もうひとりはアートワークをしています。ややこしいので、ColabusウェブサイトではまとめてNです。頭文字みたいで推理小説風なところがお気に入り。Nを水平方向に反転するとキリル文字のИ(発音は /i/ )、意味は[そして]。私たちは皆さんとColabusをつなぐ、ささやかな接続詞になれることを願っています。