一緒に考え、一緒に喜ぶ
「どうしたら納得できるものができるか一緒に考え、励まします。ときには厳しいことも伝えます。素晴らしいものができたときは褒めて、そして一緒に喜びます。」(主任・和田さん)
「いつも、作品が完成したときは、“支援”という職業を忘れて感動する側になっていて…。制作の間は、利用者さんがお互いの作品をワンちゃんのお名前で呼び合います。気持ちが入りすぎて、ここから作品が旅立つときは胸がジーンと熱くなります。」(目黒さん)
職人のような技術を持つ和田さんと目黒さん。
「偶然、支援の仕事の中で“ちくちく”に出会った感じ。」なのだそうです。
フェルティードッグ誕生のきっかけを和田さんにたずねると、「ある日、施設長(上原さん)が『こんなのが欲しい!』と持ってきたのが羊毛フェルトの人形でした。偶然、同じころに利用者さんから『こうゆうのをつくりたい!』と提案があり、やってみることにしました。」
「細かな手作業が嫌いではなかったので、この出会いはうれしかったですね。」と笑顔の和田さん。しかしその来し方は、大変な試行錯誤の連続でした。
「はじめた頃はブローチなど平面的な作品をつくっていました。やっていくうちにだんだん立体に興味が出てきて…。この作業は向き不向きがあり、やりたくてもできない人がいます。人の育成にはまず自分からと思い、気がつけばもう三年半になります。」
和田さんの挑戦がチームのアイディアを具現化し、リースにアレンジしたワンちゃんやキーホルダー、ペンホルダーなど、リピーターのニーズに応える商品につながっています。
2020年に起きた運営の変化
今年の春は感染症拡大の影響で、社会全体の動きに制限が起こりました。
「自粛期間中、利用者さんには色の勉強のために、自宅で塗り絵の作業をお願いしました。フェルティードッグは色味が大切なので、色に触れる機会を継続できればと思いました。」(主任・和田さん)
自粛解除になり、一日の利用人数を調整しながら再開。
利用者さんと一緒に“ちくちく”の日々が少しずつ戻ってきました。
しかしながら、一時の生活変化で通所できなくなったケースもあります。
復帰を目指している人へ「あなたは必要な人、一緒にやっていこう、と毎日電話で伝えます。でも無理はさせません。」(主任・和田さん)
通所したくてもできない利用者さんに「半日でもいいよ」と声をかけ、自宅で作業ができるように材料を郵送するなど、和田さんたちは工夫を重ねます。
一方で、自粛中に家で作業する習慣ができたことから、帰宅してからも手を動かす利用者さんが増えました。
「帰ったらゆっくり休んで、たくさん睡眠をとってほしいのですが、それでも、帰宅後に考えたことや作業したことを聞くと、一生懸命になれるものに出会えて、本当によかったと思います。」(主任・和田さん)
「のあのあ」ではフェルティードッグの他に、クラフトと呼ばれる箱づくりや、袋物などの小物づくり、受注生産のお弁当販売があり、それぞれ担当が分かれます。
施設長の上原さんは、フェルティードッグに情熱を傾ける利用者さんのように、他の作業をこなす人たちにも、何か打ち込めることを見つけてあげたいと言います。
「無心になって打ち込めるものに出会えたら、本当に幸せだと思うのです。」(施設長・上原さん)
施設長・上原さんと「のあのあ」のあゆみ
施設長の上原さんと主任の和田さんは互いのお子さんを通じて出会い、「のあのあ」を2016年に開設します。
「作業所を立ち上げたら、取り組むことは、はじめから“犬”と決めていました。」と話す上原さん。
愛犬とのパートナーシップから生まれたドッグセラピーへの思いを、障害者就労支援につなげたいと考えています。
「高齢者施設や小学校などへ、セラピストに同行するドッグセラピーの助手を育成して、施設外就労ができることを目指しています。」(施設長・上原さん)
現在の場所に「のあのあ」を開設した理由はとてもシンプルです。
「地域の皆さんが、受け入れて下さったことに尽きます。今年は実現しませんでしたが、地域バザーへ出店のお誘いなど、私たちを気にかけてくださる方たちのお力は大きいです。町会の役員の方が『有事の際に救助できないと困るから、申し訳ないけど…』とたずねて来てくださった時には、本来こちらからお願いすることなのにと頭が下がる思いでした。」
上原さん、そして地域の皆さんの、関わり方と人柄が伝わってきます。
「思えばこの金沢区では、社会福祉法人すみなす会さんがずっと前から、長い時間をかけて土地に根ざし、本当に大変な努力をされてきたのです。そうした事が、私たちのこともつなげてくれたのではないかと思います。」(施設長・上原さん)
上原さんたちは、知的障害者を中心に受け入れたいと考えています。
「それぞれの、皆さんのお話を聞いているうちに、ひきこもりなどいろいろな問題を抱えていることがわかりました。いつも、その人にとってまず何が必要なのかを探ります。支援なのか、介護なのか、医療なのか…。そして緒が見えてきたら決心して、その人にできる限りのことをして、受け入れる。ただし、無理はさせない。そうやって今日まで来ました。」(施設長・上原さん)
「私たちの仕事としては、踏み込みすぎと言われるかもしれませんね。」と和田さん。
しかしお二人は、利用者さんが作業所を出て、帰ってからの生活を気にかけます。
食事はとれているか、居住環境は清潔で快適か、睡眠は充分か…。