colabusの横顔 03 “都筑ハーベスト”

工賃の向上と農のこと

「みんな本当に熱心で、畑の作業に一生懸命です。」

今日の作業は玉ねぎの株分けです。
一つの穴に、複数本まとまって植えられているタマネギの苗を一本一本に分け、移植します。

「以前は、マルチに自分たちで穴を開けていたのですが、株分けする際に、しっかり植えつけられたか確認することが難しかったので、今は既製品の穴あきマルチを使っています。」

利用者の皆さんは丁寧に黙々と土に向かいます。

「雪の降った年、積もった雪を手で払い植え付けようとする利用者さんに、もうやめてあがろう、と言ったこともあります。でもすぐにはやめません。畑への思いが強い、そんな人たちです。」(副理事長・甲野さん)

玉ねぎの収穫は5月から6月頃。

就労継続支援を行う施設では、その作業時間に応じて利用者の皆さんに工賃を支払います。
都筑ハーベストではかつて、“工賃”により大きなウェイトをおいた時期もあります。
販路を拡大すれば、この農園の作物を買ってくださるお客様の対象も広がります。

「購買層が変わることで、つくる野菜をめぐってこれまでの取り組みにない部分を求められ、利用者の皆さんに対して制約が多くなりました。その結果、利用者の皆さんが離れていく事にもつながりました。」

都筑ハーベストにやってくる人たちは、40〜50代人が多く、これまでに企業や施設を一巡した人たちです。さまざまな社会経験と仕事の環境を経て、ここを選び畑と向かい合っています。

「必ずしも、利用者の皆さんが工賃の向上を求めていないことがわかりました。ここで過ごす時間や、作業する中で得られる日々の充実など、“工賃”以外のところに求めているものが多く、またそれを大切にしていることを知りました。」

とはいえ、つくる野菜を販売し収益を上げていくことは大切な営みです。
農家の人たちに「農薬を使わないで野菜はできない」と言われることもありました。

「農家の皆さんが売る立派な大根の横で、ここでつくる大根を持っていっても売り上げは良くありません。」そして、その立派な大根を買う人たちに、ルッコラが売れるかと言えば、これもまた売れないことが多いのです。

「場所によって買い手のよろこぶ野菜が違います。その日に持っていく野菜の組み合わせを考えて上手に販売し、単価を上げる工夫などにも継続して取り組む必要があると感じます。」

また前述の、一般に開かれた収穫体験事業も大事な取り組みです。
「収益になることはもちろんですが、利用者の皆さんにとって、お客様とコミュニケーションを図る大切な時間です。自分たちの作った“畑”で、参加するお客様が収穫を楽しむことは、利用者さんにとって大きなよろこびです。収穫体験事業は、収益と利用者さんの気持ちの両方を満たしています。」

キウイの木の棚は、こんなに長いのです。

農薬を使わず作物を作る場合、一般的に、周辺で畑を営む人たちのことも考えながら取り組む必要があると聞きます。

「縁あってこの場所を借りることができたのですが、はじめは訝る地主さんが、わたしたちの取り組みを見て評価して下さり、土地の利用についてお声がけいただいたこともありました。わたしたちにとっては農薬不使用や有機栽培のことより、新たに農地を借りることのほうが大変でした。」

小林さんたちは、ゆっくり時間をかけて地域のみなさんの理解を深め、農に取り組んでいます。

土壌をつくる

「都筑はまとまった農地があるので、農に取り組みやすいところです。近くのリサイクルプラントから腐葉土を、乗馬クラブからは馬糞、牛舎からは牛糞を調達し、土づくりを行なっています。馬糞についてはまだよくわからないところもあります。生なので、あちこちに分散させ積み上げ発酵させてから使っています。」

「収穫後に残る葉や幹などはここに集め、自然分解させて土に還元します。こぼれ種などから発芽し、美味しい野菜が実ることもあります。」(小林さん)
自生中のカボチャの花、植物はたくましい。

「土に栄養があるところには、丸い葉の雑草が出てきます。栄養がなく、あまり良い状態ではない場所からは、尖った葉の雑草が生えます。そうすると、それをよく見て土のバランスを考えてやるわけです。」(副理事長・甲野さん)

化学肥料で育てる野菜と、有機肥料で育てる野菜の違いがわかりますか、と聞かれ、しばらく考えていると、

「畑を見ればわかります。化学肥料で育てている畑の野菜は、みなきれいに同じように育ちます。でもここの畑のように有機肥料で育てる野菜は、同じに植えても育ちが均一になりません。つまり画一的には育たないということです。」(副理事長・甲野さん)

わたしたち人も、また。

「本当にでこぼこですよね。僕なんか、とくに。」

収穫体験に訪れた人たちが作物を抱えて、畝の間を歩いていきます。
自分の身長ほどの大根を畑から抜いて、自由に畑を走りまわる子どもたち。
耕したばかりの土の上に小さな足跡をあちらこちらに残し、笑い声が聞こえてきます。

そんな小さい人たちを眺めながら、
「普通の農家さんなら怒りますよね。でも、ここではあれでいいんですよ。」と笑う小林さん。


仲間と取り組むこの活動は、農業ではなく農のある生活空間であり、
昔の農家の人たちが家の軒先で野菜をつくっていたように、自然な取り組みで在りたい。
いろいろな人がふらっと来て過ごせる場所にしたい。
自由に動き回り、畝に踏み入れてもかまわない。
土や野菜に触れ、のびのびと、この環境を満喫してもらいたい。


そしておそらく、ここを訪れる人には、真っ直ぐな眼差しと笑顔で声をかけてくれるはずです。
「ようこそ、都筑ハーベストの農園へ。」


特定非営利活動法人 都筑ハーベストの会
就労継続支援B型 都筑ハーベスト

TEL:045-945-7174 / FAX:045-945-7174
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この記事を書いた人

N

日頃、ひとりは建築設計を仕事にしていて、もうひとりはアートワークをしています。ややこしいので、ColabusウェブサイトではまとめてNです。頭文字みたいで推理小説風なところがお気に入り。Nを水平方向に反転するとキリル文字のИ(発音は /i/ )、意味は[そして]。私たちは皆さんとColabusをつなぐ、ささやかな接続詞になれることを願っています。