映画『えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋』

(2019年/カラー/1時間36分 伊勢真一 演出作品 製作・配給 いせフィルム)

20年前に撮影された映画『えんとこ』の続編で、重度の脳性マヒがあり、寝たきりの生活を送っている遠藤さんとそれを取り巻く介護者たちを描く、伊勢真一監督のドキュメンタリー映画。

「えんとこ」とは、遠藤さんのいるトコ、縁のあるトコ。

前作を見た私としては、遠藤さんが20年たった今でも同じ生活を続けていること、さらに体は不自由になっているものの、多くの若い介護者が次々と次の世代にバトンを渡しながら、引き続き毎日の暮らしを送っていることに安心するとともに、驚かされた。

この映画の中で、遠藤さんは、ほぼずっとベッドに横たわったままの状態で、朝の薬やコーヒーを飲むのも、食事をするのも、排泄をするのも、毎日交代でやってくる介護者に委ねている。特に、初めて排泄介助をする介助者に、体をゆだねる様子は、寝たきりの生活が当たり前で、一つ一つの行為に人の手を必要とする人としては、それがある意味の日常であり、恥ずかしがっていては生きていけないことではあっても、その堂々とした姿と、自分自身を教材にして、「生きることの意味」や「介護の意味」を伝えているようで圧倒された。

 若い頃、まだ体が動いていた頃に養護学校の教員としての経験もある遠藤さんとしては、教室から自宅に場所をかえて、人を育てる活動をしているという事なのかもしれないが、映画の中で70歳の誕生日を迎える遠藤さんは、障がいがあること、老いることを私たちに教えてくれる。

 前作の頃とは違い、話すことも大変になっていたが、短歌という新しい表現方法を手に入れていた。介護者が上唇を持ち上げ、耳を遠藤さんの口元にもっていき言葉を聞き取っては、パソコンに入力していくのだ。そうして出来上がった短歌には、すでに長時間の会話が難しくなっている遠藤さんの魂が詰まっている。

見知りたる男の刃物を振り上げて 迫り来るをわが夢に見つ

これは、遠藤さんが相模原で起きた「津久井やまゆり園」障害者殺傷事件を受けて詠んだ歌。おそらく、障害がある多くの人が見た夢だろう。

 このような生き方をしている人がいることを知る人が増えたら、相模原事件を起こした被告が「えんとこ」のようなところに出会うことが出来ていたらと思った。

えんとこを支える会 http://entoko-net.com/

『えんとこの歌』の上映情報 https://www.isefilm.com/%E4%B8%8A%E6%98%A0%E6%83%85%E5%A0%B1/

この記事を書いた人

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社会福祉法人職員をしています。
障害がある人のものづくりやアート活動に心惹かれる40代。
自身でも時折ものづくりをするほか、ふらっと映画館に行ったり、鈍行列車の旅などの趣味も持ち、障害がある人の作品やその地域ならではの手仕事との出会いを楽しんでいる。