プロローグ
横浜市市庁舎2階で開催される「街パン」。
正午を迎え販売スタート、通路には人が集まりはじめます。
しばらくすると販売ブースの前は、トレーを片手にパンケースを覗き込む人の列ができます。
トレーにパンを乗せる背広の男性に、たくさんですね、と声をかけると「午後の自分のおやつと、家で頼まれた分をね。」と笑顔、お気に入りの商品があるようです。
お店のおすすめは「季節限定のビーフシチューパンです。ファンが多いのはシナモンロールですね。」(つるの里・野口さん)と、こちらも笑顔です。
あっという間に品物が減りましたね、と言うと「いつも20〜30分でパンが終わってしまいます。」とのこと。
次回は量を増やす予定ですか? の質問に「それはないと思います。」というお返事です。
「パンをつくっている工房がとても小さい場所で、一日の個数が限られています。工房でも少しだけ販売してますけど、お店ではないので……。外部販売もほとんどこちらだけです。数はこれが目一杯でしょうね。」(つるの里・武田さん)
売れるけれど増やす予定なし。
そして小さなパン工房で、そこはお店ではない。
……気になります。
つるの里へ
京急線「生麦」駅。
西口から商店街を渡り山側に進むと、岸谷(きしや)という地名が目に入ります。
商店と住宅が混在し、古い書体の看板や、なだらかな坂道の細い路地には、どことなく懐かしさを覚えます。
路地を曲がり、見上げると階段の上の傾斜に「社会福祉法人あさひ つるの里」という案内が見えます。
階段を登り切ると、ひらけたスペースを前に大きな一軒家。
ここがつるの里です。
通りかかったサロン姿の男性に「こんにちは、どうぞ。」と、笑顔で案内され、
木の玄関扉の中に入ります。
吹き抜けの玄関、扉と同じ重厚な色の木の床。
大きなクリスマスツリーに、曲がり階段と鈍く光る木の手すり。
そしてなにより、あかるい採光です。
外よりもあかるい室内。
「ここは一年中陽当たりが良くて、冬は暖かいのでうれしいですね。」
所長の藤井さんの眩しそうな笑顔です。
検温と手指の消毒を済ませ、靴を脱ぎ二階にあがります。
玄関扉の上のハイサイドライトから差し込む光。
吹き抜けの、バルコニーのような階段室からは、各作業部屋の様子がうかがえます。
どの部屋もあかるく、広々として気持ちの良い室内です。