たてよこななめご近所話 その1
季節の庭仕事
我が家はマンション住まいで一階に住んでおり、小さな専用庭を持っています。前の住人の方が植えた金木犀は大きな日陰を作ってくれています。コロナ禍で気軽に外に出られない時も、自分の庭ではマスクをせずに深呼吸でき、車椅子の息子はベランダから庭を眺めたり、鳥の声を聞くことがありました。コロナの時代に庭を持っていて良かったとつくづく感じます。
庭ではみょうが・フキ・大葉・イチゴ・ミニトマトその他ハーブなどを少し育てています。
みょうがは引っ越しのご挨拶に伺った隣のお部屋の方が、ご自身のお庭から株分けしてくれて毎年とれたてのみょうがが食べられます。フキは実家に帰省した時に、近所の農家さんの山のフキを根ごといただき移植しました。都会の栄養のない土でも、ふきのとうや茎が立派に育ち春の食卓を賑わせてくれました。あまり手入れをしないので、ちゃんとした野菜は育てられませんが実ったものは見逃さないようにしています。
土日の朝時間がある時には気楽な服装で草引きをしたり、ささやかな収穫を楽しみます。そんな時頭上から「おはよー!」と優しい声が降ってくることがあります。2階に住む奥様の声です。ベランダで様々な植物を上手に育てており、ハイビスカスだって年中咲かせ、おうちの中は植物園のようにランや観葉植物を楽しまれています。
いつも、2階のベランダと1階の庭とディスタンスを保ち少し話した後、「これどうぞ!」と冷たい缶コーヒーや水菓子を投げ落としてくれます。本当はキャッチしたいのですが、運動神経の悪い私はとりあえず庭に落としてもらってから、ありがたくいただくようにしています。
ある夏、朝顔を育てていると2階の奥様から「うちも朝顔を育ててみたいから種を分けてね。」と頼まれました。翌年、ツルが伸び始めたくらいまで育てた朝顔をお渡しすると、ベランダの柵にびっしりとツルを絡ませた朝顔が咲く見事な緑のベランダになり、階下の我が家とお揃いの朝顔がマンションの一角を彩ることができました。
他にも、地域の住人の方々とはご時世柄ゆっくり世間話は難しいので、すれ違いざまに手を振ったり、マスクごしに笑顔を投げかけるしかご挨拶はできないのですが、障害者とその家族のことを気にかけてくれている優しい温度を常に感じています。街ですれ違うどこの誰だかわからない人でも、エレベーターの鏡越しに合う目が優しげだったり、さりげなく道を譲ってもらったり…そんな胸の奥にぽっと火が灯る瞬間があると、どんなものよりも穏やかな気持ちになり、日々を過ごす力が湧きます。今年の朝顔は種を変えて、新しい朝顔を一緒に育てています。どうやら2階の方が葉っぱも立派で育ちが良さそうですが、こちらも少し手入れをしておけば暑さのピークを過ぎた頃に1階と2階で朝顔が開き始めるのではと楽しみにしています。 (くらしライターぺこ)