これからの暮らし考

ベッドから未来を見つけたい!

今回は、横浜市に住む重度障害のある小学生、ねねちゃんと家族の生活をご紹介します。

親子でできることを探した時間

口にくわえたスティックで画面操作

福々と書いて「ねね」と読む可愛い名前の女の子、日向野ねねちゃんは横浜市内の特別支援学校に通う小学部5年生。
1歳9ヶ月の時に首から下が動かなくなり、いくつかの診断を受けた後には感染症を発症し、治療のための長い入院生活を送ることになりました。 母の由美さんは、入院中の生活の中で、他の障害のあるこどもを知り障害と一言に言っても、さまざまな形があることを気付かされたと話します。入院中のリハビリで、口にペンを加えてお絵かきボードでお絵描きをしたり、楽器を鳴らす遊びを始めたところから、ねねちゃんのベッドで楽しみを見つける生活が始まったそうです。


ねねちゃんにはお姉ちゃんがいて、お姉ちゃんがしているゲームをやってみたいというねねちゃんのために、療育センターの作業療法士の先生に相談して口でゲーム機を操作するスティックをシリコンスプーンを改造して作ってみました。そこからは、ゲーム用、お絵描き用など生活の中のシーンで操作をするためのスティックを何種類も作り、自分で書き物をしたり操作する経験を積み重ねていったそうです。
ねねちゃんは小学校1年生の頃には、あごにスティックを当てて操作をするジョイスティック(コンピューターを操作するスティック)も使えるようになります。由美さんは「私たちが当たり前にしている日常の動作であっても、スティックを使って操作できることは、本人にとって新しい発見や喜びになります。身体が動かない娘にとって、本人の興味があって夢中になれるものを増やす気持ちを伸ばしたい」と、フェイスブックやネットを使って情報を得る中で出会った作業療法士の先生から、新しい素材のスティックを教えてもらい、さらに使い方がステップアップしたと話します。

2019年NTTデータ ジェトロニクス国際賞のコンピュータアート部門入賞作品

小学4年生の時の作品 優秀賞を受賞しました

 

あごを使ってパソコン操作

 

心の成長の過程

ねねちゃんは身体の障害だけで知的には問題がなく会話でコミュニケーションがとれますが、日中は経管栄養での注入、たんの吸引、導尿、吸入があり、夜間は呼吸器の管理が必要です。そのため、常に由美さんがそばで医療的ケアをしながら、使いたいものをセットしたり、本人の要求に答えています。年齢相応の学習を受けるためのねねちゃんの特別支援学校への通学は、家族の負担や外出の困難さから毎日の登校が難しかったのですが、コロナ禍になりオンライン授業が受けられるようになったことで、自宅にいても毎日の学習が可能になりました。
たまに登校した時も身体のケアのため授業が中断するなど、思うように参加できませんでした。自宅で受けるオンライン授業では、本人が授業を受けている間にも身体ケアができて授業を中断せずに学習に集中できる良さがあるそうです。
お話が達者なねねちゃんは、お姉ちゃんとの口げんかやお母さんへの言葉がきつくなることもあり、一時期は乱暴な言葉の投げかけにとても悩んだことも。
その時には臨床心理士から「その言葉の意味を投げかけているのではなく、他に自分の気持ちに合った言葉を知らないから言っているだけ。言葉より本人の気持ちを大事にして受け止めてください」とアドバイスをもらい、納得できたと言います。今は、オンラインの授業中にお母さんに文句を言う時には、ちゃんとミュートにしてから…と大人の対応を見せる一面もあるそうです。

ねねちゃんのこれからの暮らし

自宅にショートステイ中のOriHimeを使ってお姉ちゃんが外の景色を見せてくれました!

今の学校の勉強は最低限の宿題や勉強はこなしていながらも、ねねちゃん自身の興味関心はもっぱらゲームやYouTubeで、由美さんも本人がやりたいことが見つかれば背中を押してあげたいと思っています。最近は「将来は分身ロボットOriHimeのパイロットになりたい」という夢を持っています。そのためには技術だけでなく、どんな人とも会話できる社会性も必要と由美さんは話します。

 由美さんは母親として、常にねねちゃんのことを最優先してきた時間の中で、子どもたちが小さい頃は自分の自由な時間が欲しかったけれど、今は本人が夢中になって遊んだり、オンラインで授業に参加できている間は少し離れることができるし、自分で操作するものが増えることが何より嬉しく、互いに良い効果になるはずと期待しています。
今の生活のスタートになったジョイスティックで家族でお絵描き大会をしてみると、ねねちゃんのように書くことができず、その操作の難しさを実感するそうです。コロナ禍で在宅しても学習やイベント参加が可能になり、生活リズムや生活環境に無理がなく充実しているそうです。

 ねねちゃんのように学校卒業後に移動や医療の問題で外に出ていくことにリスクのある場合、在宅しながら家族以外の人が関わって自立のための体験や生きがいを楽しむような支援を望む人も出てくるかもしれません。すでに在宅でIoT(家電などがインターネットでつながり操作できること)を使っての働き方がコロナ禍で実現されたことで、在宅生活は療養だけでなく障害の重い人にとっては生活や生きがいを育む場所として社会とつながって、その人の能力が発揮できる場が増えていき、いつの日かベッド上でお仕事をするねねちゃんとお話できたらと思います。

 

〈編集後記〉Noriko Yamamoto 障害プロジェクト担当

障害児者のサロン事業「Candy lei」で知り合った日向野さん親子は、多くの人が描く重度障害児のイメージを変えてくれると思い取材をさせていただきました。医療的ケアがあり、ベッドに寝ていることよりも、オンラインで友達や学校とつながり、憧れのユーチューバーや開発者、好きなキャラクターに目がハートになる彼女から、「好きなことがある人生は楽しい!」ことと、ただ与えられる支援だけではなく、自ら課題(それがゲームでも)に挑む気持ちは私たちの見たことのない広い世界に向かっているのだと思います。